どうしてお父さん あんな夢 見させるのかしら 何か あるのかしらねぇ お墓のこと ちゃんとしてくれてるのかしら 十年ほど前に 亡くなった祖父を 母は今日 夢に見たのだという 鹿児島に帰ってきたら? 今年は帰ってな
願い
めぐみは僕に お返しなんかくれるなという 素直に甘えられる幸せの傍らで お返しをしたい僕の願いが べそをかきながら 迷子みたいに立ちすくんでいる
秘密
めぐみには 秘密がある 心に決めて 秘密にした 動かせない 思い
「人魚とパチンコ」-挽歌ではなく-
パチンコは歌う 遠くから歌う 遠い海で 人魚は岩の上にいて ハープの音色で船乗りたちを いつの間にやら虜にしていた パチンコは おいらの心の中にいて 妙に電気的な音楽と 明滅する光を繰り返し チリリリと落ちてくる豪奢
幸せ
人は よかったと思える 心さえあれば いつも幸せに 暮らせるのではないかしら そんな程度の考えを 僕はこねくり回していた そんな折 さてもご無沙汰いたしましたと 気まぐれの達人 思い出係の風来坊が 僕のところに帰ってきた
長い列
「これは どなたの お葬式 ですか」 凍りつく吐息の向こうに 天は無意味なほど明るく 透き通っていた 「ほら あの方の」 持ってきて そこに置いたばかりの ちんけな水車が さっき通りすぎてきた 入り口のところで ちょろち
魔界
悪魔さん どこにいますか? どこにでもいますか? いつからいますか? 魔界へ帰ったらどうですか? あなたが 隠れるの巧みなのは もう分かりましたから そろそろ魔界へ お帰りなさい とにかく魔界へ お帰りなさい 念のための
無言
i 僕は 何も言わない 何も 僕が言わない時 僕は 何も言いたくない そうでない時は 僕は 何も言えないのである たとえば 今のような あきらめきれない時などは ii 無言の味は 羊羹に似ている 特に 食いすぎた時の
ポセイドン
夏は夕暮れ 透明なほど 肌の白い女が また頬を涙に濡らして 海辺に立った ゆりかごの 調べはカノン たれか知る 涙のゆくへ 風の伝ふる 静けきメルヘン 女は 遠くを見つめたまま 固く唇を 結びなおした それから な
情話
迷惑な情話が世に溢れ ひとは正しくはいられなくなった ひとは正しくはいられなくなって 迷惑な情話が世を押し流す 洪水のようだ