人は よかったと思える 心さえあれば いつも幸せに 暮らせるのではないかしら そんな程度の考えを 僕はこねくり回していた そんな折 さてもご無沙汰いたしましたと 気まぐれの達人 思い出係の風来坊が 僕のところに帰ってきた そうして かつては僕を占領していた 悲しみのすべて 丁寧に集めてございますと 誇らしげに言いながら 古ぼけた綴りを僕の前に置くと 大切そうにめくり始めた 僕は 悲しみを一つ一つ 確かめていった そこにあるのは本当に 初めから最後まで僕のものだった 中にはときおり 胸につと蘇り えいやとばかり暴れ出して 僕を弱らせる悲しみも あるにはあった けれど大概の悲しみは やけにおとなしくて 小さな膝を抱えたまま 切なげに こっちを見つめているのだ お前たちは こんな程度のものだったのか 僕は ふいに人生の全部が 無性にいとおしくなって 幸せについて もう一度初めから 考え直さなければならないと思った
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