やっとのことで巡り会えた 嬉しくて だれかに言いふらしたいけれど まだだめ 勿体なくて 話す相手だって 念入りに人選しなくちゃ
馬鹿を言う
こんな僕を好きだと 世にも奇妙な 馬鹿を言う あんまり珍しいから 君を抱きあげて そっと宝箱に しまうとしよう
泥棒
君の睡眠不足 睡眠時間を盗んだのは、 誰あろう 他ならぬ私です 心を ありったけ盗まれた 素敵な泥棒さんへの ちょっとした仕返しに
甘味
そう そのことば できることなら 紅茶に溶かし込んで 一滴残らず 飲んでしまいたい 私の ありったけで 慈しみながら
イチゴ
真夜中 暗い部屋のなかで わけの分からないことを 相部屋の二人が 楽しそうに 会話していましたので 私が それってどういうこと と訊いてみたところ 返答はありません 耳を澄ますと すやすやと 二人とも静かな寝息を 立てて
記憶
車で 少し外に出かけたとき 助手席で母が泣いた だからその時は 父の 偉かったところなんかを 語り合ってみた 父は 病床にあっても 絶えず母や私の身を 気遣っていたし 決して周りのだれかに 辛く当たったりすることも わが
風邪
今日は みぞれがびちょびちょと降っていた 冷たくて 急に君がどうしてるのか気になって 息ができないくらい 悲しかった どうやら 風邪をひいたみたいだ
系図
どうしてお父さん あんな夢 見させるのかしら 何か あるのかしらねぇ お墓のこと ちゃんとしてくれてるのかしら 十年ほど前に 亡くなった祖父を 母は今日 夢に見たのだという 鹿児島に帰ってきたら? 今年は帰ってな
願い
めぐみは僕に お返しなんかくれるなという 素直に甘えられる幸せの傍らで お返しをしたい僕の願いが べそをかきながら 迷子みたいに立ちすくんでいる
「人魚とパチンコ」-挽歌ではなく-
パチンコは歌う 遠くから歌う 遠い海で 人魚は岩の上にいて ハープの音色で船乗りたちを いつの間にやら虜にしていた パチンコは おいらの心の中にいて 妙に電気的な音楽と 明滅する光を繰り返し チリリリと落ちてくる豪奢