旧道のトンネルの中はいつも暗くひんやりとしているまるで永遠のようなその静寂の中をひときわ冷たい水の雫の落ちる音が響くとき響くとき少しだけ時間の流れがひずんで後戻りするんだが後戻りするんだが
水平線
水平線がまあるく どうやったら見えるんだろう まだ本当には そう見えたおぼえがないんだ ないしょだけど
東京特許許可局
誠に月並みですが 東京特許許可局 よく言われることなんですけれど 東京特許許可局 本当のところ私どもとしましては 東京特許許可局 なにぶん戸惑うことばかりなもので 東京特許許可局 時代時代と諦めればよさそうなものを 東京
蛍
夏休みで田舎に帰った僕たちが 「ひと夏に一度そこで河童が足を引く」 とか言う神秘めいた噂をしながら 冷たい小川の淵で毎日泳いでいた頃だ あれはまだ 地球の温暖化なんか だれも言わなかった頃だろう 月の出ない真っ暗な夜 だ
金魚すくい
薄紙を張ったポイも ずいぶんと近代的になりましたがね 子供はやっぱり金魚すくいが好きと見える その小さな生け簀の 周りに小さい手を並べて 順番を待っていたりするにも楽しそうだ すぐに薄紙が破れてしまって ハイ残念でした
今
夕焼け雲の赤く染まったつかの間 ひまわりに風がそよぎ その背丈とちょうど同じくらいの少年が そばで葉の手招きに会って立ちすくんでいる 夕焼けのほんのつかの間 風に乗ってどんどん雲は流れ その向こうの空は明るい水色に 光っ
しろつめ草
校庭の片隅で見つけた幸運の小さな象徴(しるし)「ほら 四葉のクローバだよ」「クローバ? 四葉の? ほんとだ!」「あげるよ」「わあ ありがとう」初夏のうららかな昼休みは清々するくらい明るくて綺麗だ 明るくて綺麗な昼休みであ
昼下がり
平和な海の掟に 松の梢はうっとり酔い ほうっと明るんだ空が 妖怪を称えあげて光り ジュネーブに飛んだ姉の 手首にはブレスレット 細いブレスレット 鎖につながれた 奴隷の憂い 静かな 海の憂い らっきょうが ガリリと音を残
紋白蝶
ぼんやりと 海をあこがれていると 微かな風が吹いてきた 遠くに 紋白蝶が振り子のような 往復運動をしているのが見える ずいぶんと遠くなのに どういうことだろう はっきり見える 夏が近付いたための 僕の悲しみのせいかもしれ
女生徒
空が暮れて さっきからしきりに 僕を誘っている。 ずいぶんと色っぽいじゃないか。 僕は心の中で呟き そのまんま座っている。 そうして空はどんどん 暮れてゆき もはや闇は 少しも僕を誘わない。