「風車ってどうして回るのかな」 「だって回らないじゃ淋しいじゃないか」 「でもこの風車回らないよ」 「きっと淋しいんだよ」
六月
雨が上がり 空が明るんできたせいで 僕はなんとなく 無口の今を持て余している 僕の心は なんだか たまらなくなっているのに…… ほら いつもと同じく働く僕は サーカス小屋が お似合いだ サーカス小屋こそ お似合いだ 〈そらそら そこゆくお嬢さん お代は観ての お帰りだ 観なきゃ損々 お入りな 日本一の サーカスだ〉 日本一とはよく言ったもので 当たり前ぐらいのラッパが鳴って 嘘はつかぬと嘘ばかり 〈手前が道化を つとめます 手前が道化で ございます〉 梢のところで 風が ほら ほらほら 拍手をくれている
ある朝に
僕の生み出せるものは うんちくらいのものだ いつになく 頑張ってみたところで 出来てきた作物はといえば いつも同じにひょいとあり そうして 勢いのある水なんぞに流されて どこかへ溶けて消えちまう 僕にしてみたところでもう 金の卵は生めないことを知っているから いちいちがっかりもしないけれど 時々考えてみたりする こんなものにしても 喜んで受け容れる畑のひとつ どこにかあるんじゃないかしらんと そうでなけりゃ 僕だって鼻を つまみたくさえなっちまう
無題
いったい どこで いったい 何に つまずいて しまったのだ
無題
ひょっとこ の 憂ひ
無題
ろばのみみ に ねんぶつ
知恵の輪
早いところ 何とかなるまいか 知恵の輪みたいに
振り子
間延びした運動で 僕を煩わせる重たい振り子 揺れながら ぐれちまって もう手に負えない 僕はそのうちになんとかなるんだろうと思いながら どうにかやってはいるが
亜希子
そこにいる君を僕は愛するのである 飾り過ぎることも 粗野に見せ過ぎることも 今や無用のことである そういうことを想像してみては 僕は一切の思いを集め 世の中をまた憎み直し 溜め息をつくのである そこに 今いる君を 僕は愛するばかりである そこにいなくなる君を 僕は心に刻みつけ しばらくそっと黙り込むのである
大男
思い詰めた少女のように けなげに僕の胸を飾っていた 小さな瑪瑙のタイどめを /メノウ 僕はとうとう 守り切れなかった 平穏な時にほど何かが起こる 倦んでいる退屈の向こうから のっしのっしと あの大男はやって来た 大男は乱暴だ 乱暴者だ 片手が僕の胸ぐらを掴むと おお もう一方の手が 僕の大切な瑪瑙のタイどめを 奪い取ろうと伸びてくる 奪い取られるものかと 抗い もがいても 大男の力は強大だ むやみなくらい強大だ さんざんいたぶられた末に 僕はあえなく倒されてしまう 瑪瑙を手にとると 大男は僕をうっちゃって ゆっくりと向こうへと 遠くへと離れて行った 取り残されて ずっと僕は座り込んでいた 何がいけなかったのか 愚にもつかないことを思っては 涙をこぼした いつしか 瑪瑙のあった胸元に つゆ草の花が寄り添って 僕をやさしく気遣っていたが 僕にはそれさえ またあの大男に 狙われはしまいかと 気になり始めているのだ