悲しみがテーマ

君と

いろいろあったみたいだけど 本当は何もなかったのか とも思われてくる ただ 何も始まらないまま終わってしまったと 今から思いなおしてみるには 確かに何かがありすぎたようでもある 私の夢は いつも裏切る たいがい ひどく切

伝説

遠い昔 思い詰めた姫君が 叶わない祈りを抱きしめたまま 湖底に身を沈めてしまったという そんな伝説が どこにもよくある 月影が水面に映って 音もなく波に揺らめく夜 息を懲らして そっと目を瞑ると それが単なる伝説でないの

系図

どうしてお父さん あんな夢 見させるのかしら 何か あるのかしらねぇ お墓のこと ちゃんとしてくれてるのかしら  十年ほど前に  亡くなった祖父を  母は今日  夢に見たのだという 鹿児島に帰ってきたら? 今年は帰ってな

秘密

めぐみには 秘密がある 心に決めて 秘密にした 動かせない 思い

幸せ

人は よかったと思える 心さえあれば いつも幸せに 暮らせるのではないかしら そんな程度の考えを 僕はこねくり回していた そんな折 さてもご無沙汰いたしましたと 気まぐれの達人 思い出係の風来坊が 僕のところに帰ってきた

長い列

「これは どなたの お葬式 ですか」 凍りつく吐息の向こうに 天は無意味なほど明るく 透き通っていた 「ほら あの方の」 持ってきて そこに置いたばかりの ちんけな水車が さっき通りすぎてきた 入り口のところで ちょろち

情話

迷惑な情話が世に溢れ ひとは正しくはいられなくなった ひとは正しくはいられなくなって 迷惑な情話が世を押し流す 洪水のようだ

決心

引力の てっぺんにある ああまでくすんだ 空の色 私は 息を凝らして また憎みなおす ああまで ひどい空の下に いつまでも あなたを 放ってなど おけるものか 大切なものが だんだんと駄目になる そんなこと どうあっても

変身

君はある時 自分が既に自分の手には負えないくらい 女になってしまっていたことに 思い至るであろう 少女は大人の女を 長く夢見てきたであろうけれど そうしているうちに いつのまにか 自分の知っている自分より 大人に見られて

道草

ランドセルを背負って 少年は ついさっき送り出されたばかりだ 学校へと向かう途に いつもと同じ 平凡な家並みが待ち受けて 少年に今日も教える 生きていくということの ほとんどが繰り返しにすぎないことを 一方通行の細道 近

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