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イチゴ

真夜中 暗い部屋のなかで わけの分からないことを 相部屋の二人が 楽しそうに 会話していましたので 私が それってどういうこと と訊いてみたところ 返答はありません 耳を澄ますと すやすやと 二人とも静かな寝息を 立てて

伝説

遠い昔 思い詰めた姫君が 叶わない祈りを抱きしめたまま 湖底に身を沈めてしまったという そんな伝説が どこにもよくある 月影が水面に映って 音もなく波に揺らめく夜 息を懲らして そっと目を瞑ると それが単なる伝説でないの

「人魚とパチンコ」-挽歌ではなく-

 パチンコは歌う  遠くから歌う 遠い海で 人魚は岩の上にいて ハープの音色で船乗りたちを いつの間にやら虜にしていた パチンコは おいらの心の中にいて 妙に電気的な音楽と 明滅する光を繰り返し チリリリと落ちてくる豪奢

幸せ

人は よかったと思える 心さえあれば いつも幸せに 暮らせるのではないかしら そんな程度の考えを 僕はこねくり回していた そんな折 さてもご無沙汰いたしましたと 気まぐれの達人 思い出係の風来坊が 僕のところに帰ってきた

魔界

悪魔さん どこにいますか? どこにでもいますか? いつからいますか? 魔界へ帰ったらどうですか? あなたが 隠れるの巧みなのは もう分かりましたから そろそろ魔界へ お帰りなさい とにかく魔界へ お帰りなさい 念のための

情話

迷惑な情話が世に溢れ ひとは正しくはいられなくなった ひとは正しくはいられなくなって 迷惑な情話が世を押し流す 洪水のようだ

人生

何ゆえの 体罰であろう そんな風に 疑い続ける 自分がいる こんな 自分のためになら 体罰にも 耐えていけそうな 気がする

泥だんご

泥だんごは 子どもの掌の上で 丹念に 丸められたあと 小さな手で 壊さないように そっと並べられる 子どもは誇らしく そして 透明な喜びに満ちて 笑う すべては 忘却と現実とに 置き去りにされ 泥だんごも干からび ひび割

欠片(かけら)

たくさんの いただきものを 寄せ木細工のように 組み合わせて 私の全体ができている 一つ一つの欠片を どなたからいただいたものか 見分けようにも まるでお手上げの だらしない 始末だけれど

心を 切り刻んで 細かく 切り刻んで ある時ふと 紙ふぶきのように それを一斉に 空(くう)に舞わせたところに それは生まれたのだろう 純粋な魂を 粉々に 切り刻んで 紙ふぶきのように 散らせたなら それはきらきらと 瞬

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