君に伝えたい思いは いつも 同じ言葉になっちゃうんだが 気持ちはいつも新しくて いつも 少しずつ変わっている ただ 少しも変わりがないと言っても 別に おかしくはない そんな気もするんだから 全くもって無茶な道理だ
記憶
車で 少し外に出かけたとき 助手席で母が泣いた だからその時は 父の 偉かったところなんかを 語り合ってみた 父は 病床にあっても 絶えず母や私の身を 気遣っていたし 決して周りのだれかに 辛く当たったりすることも わが
結び目(亡き父に)
最後に入院する少し前 力無げな声で 「疲れたから休んでいるんだ」と 座り込んだまま答えたあなたの姿が 私の中によみがえって 静かに微笑みかけてくれるけれど 私はあなたの そんなにも優しい表情に いつになったら 微笑み返せ
系図
どうしてお父さん あんな夢 見させるのかしら 何か あるのかしらねぇ お墓のこと ちゃんとしてくれてるのかしら 十年ほど前に 亡くなった祖父を 母は今日 夢に見たのだという 鹿児島に帰ってきたら? 今年は帰ってな
自然らしく
不安らしい瞳が 揺れながら僕を見つめる 何かを恐れている君のために 僕は大袈裟に決意する 宇宙よりも自然らしく 存在することを命にかけて 君の恐れているものは 僕であろう 友であろう そして 自分自身であろう 偽りであろ
欠片(かけら)
たくさんの いただきものを 寄せ木細工のように 組み合わせて 私の全体ができている 一つ一つの欠片を どなたからいただいたものか 見分けようにも まるでお手上げの だらしない 始末だけれど
宛名書き
年賀状の宛名書きを パソコンで手伝ってやるのは ここ数年の私の習い 昨年の住所録を印刷して 母に渡してやると 一年前に頂いたお賀状の束と ひとしきり時間をかけて 照らし合わせている しばらくすると 私の部屋にやって来て
奈津子
「奈津子は初めからいなかった」 そう言っても 何も差し支えはないんだが…… 子供らに人生なんかを説いて 僕の人生が終わってゆく 終わってゆく 馬鹿げちゃいるが もしもの話 誕生したその時 終わっていたと仮定し
もしもの決意
尊敬できない在り方を もしもしなければならなくなって そのときたとえ渋々でも 自分をすっかり明け渡すような 最低のことにでもなったなら 僕は是非とも願い下げです この世にそうやってまで存在すること 神様と仏様とお母様に申
少女
夏といえば 爽やかな色の 水玉模様のワンピースを着た 少女を思い出すのはなぜだろう そのくせ だれということもなく 顔なんかどうでもいいと考えながら 十歳くらいの少女の姿を思い浮かべている しかもだ やっぱりどこのだれか