捧げられた「祈り」の分だけ人々の生涯は確かに幸せになってきたのだろうか 信仰というものがろくにないんだから仕方も無いが僕の場合にはどうにも祈りという祈りがいつもいつも無力だった気もする 祈りというのは限界にまで至ったとき
奈津子
「奈津子は初めからいなかった」 そう言っても 何も差し支えはないんだが…… 子供らに人生なんかを説いて 僕の人生が終わってゆく 終わってゆく 馬鹿げちゃいるが もしもの話 誕生したその時 終わっていたと仮定し
霙(みぞれ)
霙の中を 卒園式帰りの母子が 傘をさして通り過ぎます 着飾った若いお母さんは 子供の制服の胸にあるリボンと ちょうど同じようなピンクの きれいなスーツを着ているのです 冷たい霙は 傘の上にもうっすら積もって 子供の黄色い
東京特許許可局
誠に月並みですが 東京特許許可局 よく言われることなんですけれど 東京特許許可局 本当のところ私どもとしましては 東京特許許可局 なにぶん戸惑うことばかりなもので 東京特許許可局 時代時代と諦めればよさそうなものを 東京
もしもの決意
尊敬できない在り方を もしもしなければならなくなって そのときたとえ渋々でも 自分をすっかり明け渡すような 最低のことにでもなったなら 僕は是非とも願い下げです この世にそうやってまで存在すること 神様と仏様とお母様に申
ひまわり
少年には見えたかしら。 太陽を乗せて自転車は風となり 季節は秋を急ぎ 少年は振り向かない ひまわりはただ そっと思うばかりだ
蛍
夏休みで田舎に帰った僕たちが 「ひと夏に一度そこで河童が足を引く」 とか言う神秘めいた噂をしながら 冷たい小川の淵で毎日泳いでいた頃だ あれはまだ 地球の温暖化なんか だれも言わなかった頃だろう 月の出ない真っ暗な夜 だ
金魚すくい
薄紙を張ったポイも ずいぶんと近代的になりましたがね 子供はやっぱり金魚すくいが好きと見える その小さな生け簀の 周りに小さい手を並べて 順番を待っていたりするにも楽しそうだ すぐに薄紙が破れてしまって ハイ残念でした
花火
空には空の 事情というものがございましょうものを 花火の奴ときた日には お構いなしにシュルドンと鳴り 平穏な空のひとときの安息を打ち破るのでありました 空はそれでも 別に文句など言うでなく 首をちょっと傾げたふうに ほほ
みみずの死
どくだみの花が咲く 初夏のベッドで 僕は気ままに生きていた そこが 僕の全ての生涯の在り処 それでよく それでしかなく 土の臭いはそのまんま僕の 生と死を抱く 優しい場所であったのだ どこに行こうという望みも ありはしな