人生がテーマ

一番星

冬の木立に風が吹く 一番星の輝きだす頃 お日様に取り残されて 男はとうとう 肩をすぼめて立ちすくむ 野良猫がにゃあと鳴き その瞬間に振り向いた男の 疲れた視線は魔法となって 野良猫を見事に射止める 互いに見つめ合うのは

卒業

何のために 今があるのか 何のために 自分があるのか 何のために 生きるのか という不思議を思うときに 僕らは思い返すだろう 過ぎ去った あらゆる今というときを 過ごしてきた あらゆる自分という存在を 別れて 遠く会えな

系図

どうしてお父さん あんな夢 見させるのかしら 何か あるのかしらねぇ お墓のこと ちゃんとしてくれてるのかしら  十年ほど前に  亡くなった祖父を  母は今日  夢に見たのだという 鹿児島に帰ってきたら? 今年は帰ってな

幸せ

人は よかったと思える 心さえあれば いつも幸せに 暮らせるのではないかしら そんな程度の考えを 僕はこねくり回していた そんな折 さてもご無沙汰いたしましたと 気まぐれの達人 思い出係の風来坊が 僕のところに帰ってきた

長い列

「これは どなたの お葬式 ですか」 凍りつく吐息の向こうに 天は無意味なほど明るく 透き通っていた 「ほら あの方の」 持ってきて そこに置いたばかりの ちんけな水車が さっき通りすぎてきた 入り口のところで ちょろち

人生

何ゆえの 体罰であろう そんな風に 疑い続ける 自分がいる こんな 自分のためになら 体罰にも 耐えていけそうな 気がする

泥だんご

泥だんごは 子どもの掌の上で 丹念に 丸められたあと 小さな手で 壊さないように そっと並べられる 子どもは誇らしく そして 透明な喜びに満ちて 笑う すべては 忘却と現実とに 置き去りにされ 泥だんごも干からび ひび割

変身

君はある時 自分が既に自分の手には負えないくらい 女になってしまっていたことに 思い至るであろう 少女は大人の女を 長く夢見てきたであろうけれど そうしているうちに いつのまにか 自分の知っている自分より 大人に見られて

道草

ランドセルを背負って 少年は ついさっき送り出されたばかりだ 学校へと向かう途に いつもと同じ 平凡な家並みが待ち受けて 少年に今日も教える 生きていくということの ほとんどが繰り返しにすぎないことを 一方通行の細道 近

途上

飲んだっくれて 日が暮れて 誠心誠意 くれどおし しらばっくれて グレてみる 連れに逸(はぐ)れて 途方に暮れて 食いっぱぐれて 風が吹く そぞろ歩きの みちの上

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