その7
ゴムボートで息子の遺体が、耐水性の布シートでくるまれて岸に運び上げられると、村長夫妻は陽炎のように揺らめきながら歩み寄った。刑事がそっとシートをめくった。村長はその中を見て叫んだ。
「こっ、これがっ、これが息子ですか。」
水の中にあった身体は、ふやけ切ってだぶだぶと膨れ上がっていた。全くもとの面影はなくなって、醜い蝋人形のような色をしている。
「す、すみません。どうやら私の息子のようです。残念ですが、この衣服なら間違いありません。」
村長の夫人は夫にしがみついて、ようやく立っているようで、表情などないほどに泣いている。一人の刑事が言う。
「残念です。お察しいたしますが、坊ちゃんの遺体は司法解剖に回さなければなりませんので・・・。変死の場合は必ずしなくてはなりません。ご承諾いただけますね。」
「はい、存じております。」
こういう会話も逐一見守って、記者たちはメモに取っている。到着してからカメラマンたちも、間断なくシャッターを切り続け、フラッシュの閃光が村長夫妻に浴びせられた。テレビカメラのための照明も、些少の遠慮なくあたりを照らしている。
村長夫人は、女の刑事に肩を抱きかかえられて、彼女の息子が担架で車に運び込まれ、その場を去ってゆくのを思い詰めて見ている。その車が去ると、夫人はその場に座り込んで、両手で顔を覆って、そのまま、地面に届くほど頭をうな垂れてしまった。報道カメラマンは、すかさずシャッターを切っている。かと思うと、記者がマイクロホン片手に、くだらないインタビューをしようとする。
村長が言った。
「今は、そんなものに答えられるわけがない。もう、やめてくれ。・・・どうか、どうか今日はそっとしておいてください。どうか・・・、お願いします・・・。」
ふと沈黙があって、その言葉を受けるかのように、どこからか声がした。
「さぁて、警察に行くとしようか。そのうちに解剖の結果も発表されるだろう。ここはもう何にもないよ。調べは警察からきくぞ。」
瞬く間に報道陣は消え去り、村長夫妻は警察に同行を求められて連れられて行った。