その6
村長の息子の捜索は、まだ続いていた。
村の男が幾人かずつ交替で睡眠をとって、絶え間なく行われていた。当然、誘拐の可能性をも疑っていたため、警察は静かに捜索を進めていた。
子どもたちが池の周りからいなくなって小一時間が過ぎていた。日暮れ前ではあるが、そろそろ蛙の鳴き声が盛んになり始めていた。今度は3人連れの捜索の男たちが、池のほとりにやって来た。中の1人が右手で指差して叫んだ。
「おいっ、あれっ。違うか。あれっ、黄色くなってるだろう。あの水草の陰のところ。黄色く見える。」
「おお、あれだ。間違ぇねえ。村長の息子に間違ぇねえな。」
「おお、あっはっはっはあ、いやー、早く知らせるべえ。」
「見つかったのう。やれやれ。死んじまってたんだな。でも、見つかってよかったよな。ナンマイダブッ・・・・」
「ナンマイダブッ、ナンマイダブッ・・・」
「しかし、これで一件落着だの。ナンマイダブッ・・・」
「なんかこうなると、村長から日給取るの、ちょっと気の毒でねっかの?」
「生きててくれりゃな、有無は言わせねぇんだがな。ただ働きでもしょうがねぇかもしれんのう。」
「んん、まぁ、早いとこ、村長に知らせてやらねえどぅ。」
「おう、そだな。」
3人が駆け足で村長の家まで知らせに行くと、待機していた警察の車がすぐに仕立てられた。村長夫妻を乗せて乗用車は猛スピードで田舎道を走り、池のある林の際までほんの5分ほどで到着した。
「ほら、村長さん。あすこに。見えますろ。池の真ん中あたり、黄色味がかって見えますろな。ちょっと暗くなって見えにくいかの。」
「あああうわあああ、、ううう・・・」
と大声を出して、村長は泣き崩れた。うす暗がりの中ではあったが、確かにそこに黄色い衣服のようなものが認められたのだった。
一緒にやって来た村人たちは、何と言って慰めてよいやら、お互いに顔を見合わせてしまった。警察がゴムボートを用意して数十分後に到着するまで、村長夫妻は抱き合ってひざを落とし、すっかり力を失って泣きじゃくっていた。この時ばかりは、居合わせただれもが、決して貰い泣きを禁じ得ない。
隣の村の葬儀屋もいち早く駆けつけて、警察のボートが遅いと脇でいらいらして見せている。もう今から何やかやと世話を焼いていて、何枚準備してきたのか、店の宣伝用に名前が入ったハンカチを配りまわっている。
知らせを聞いて、警察の車と一緒に報道陣も押し寄せた。その時まで、営利誘拐の可能性もあったために、報道管制により一切公表は控えていたものの、警察に大勢詰めかけていたのである。