その4

 夏休みが終わりに近くなったので、子供たちは午前10時まで、友達を誘いに行ってはいけない。家で宿題をする。小さな村の子供たちは、小学校の規則をよく守るのである。だから、まだ池の周りにはだれもいない。
 捜索隊の中の2人が、連れ立ってやってきた。池のほとりに着くと、まだ話しながら、並んで池に向かって立ちションベンを始めた。水面に乱れた波紋が広がっていく。静かな朝に、まんざら似合わなくもない音が、彼らにしばしの沈黙をもたらした。
 やがて、2人の視線が同じものに注がれた。
 「なあ、あの真ん中あたり、水草の陰、何か見えねえだか。」
 「ああ、少し水が黄味がかって見えるな。」
 「何だろがぁ。」
 「プランクトンでも育っとるのかの。」
 「うん、プランクトンか。なるほどな。」
 「初めて見たのう。」
 「うん、初めて見た。」
 「・・・ふう、気持ちえがったあ。」
 「・・・ほおっ、すっきりした。」
 2人はすることをし終えて、ファスナーを上げた。同時に、村長の息子の最後に着ていたもののことを思い出した。消息を絶ったとき、子どもは黄色いTシャツを身につけていたのである。
 「お、おい。何も言うな。早く戻ろう。行くぞ。」
 「えっ、でも、あれぇ・・・、ほら、あれぇ・・・。」
 「馬鹿、何もねぇぞ。言うなっ。言うなよっ。」
 「馬鹿って・・・、馬鹿言ってんのはおらじゃなくて・・・」
 「いいか。せっかくいい天気でピクニックみたいに気持ちいい気分になってるのに、おまえ、あれか。気分悪くなるようなこと、好きなのか。」
 「好きかって、好きなわけなかろうがね。気分はいい方がいいに決まってる。」
 「そ、そうだろ。な、だから、だから関わらない方が得策だっぴょぎゃあ。」
 「だっぴょぎゃあって、お前、どこの言葉しゃべってんだ。何だそれ。」
 「ここでだな、もし、仮にだな、わしらが何かを見つけたとする。」
 「見つけたとするっていうと、見つけてないってことか。それでは逆だが。」
 「いや、いいんだ。見つけたとして、だれが喜ぶ。」
 「そうさな、村長は喜ばねえかもしれんな。」
 「な。それではだれが誉められる。おまえ、誉められるか。」
 「誉められもせんじゃろうな。うやむやになるくらいか。」
 「村長だって、まだ今は希望を持ってるのじゃろうが。絶望はしてないのと違うか。」
 「うん、それはそうだ。絶望はしていない。」
 「お前、村長を絶望させて嬉しいか。な、嬉しいか。」
 「嬉しいわけはないだろうだっぴょぎゃあ。」
 「だっぴょぎゃあって、何だそれ。」
 「はは。もう、わかった。君子危うきに近寄らず、というわけだな。うん、それももっともだ。どうせ、そのうちにだれかが見つけるだろう。」
 「おお、わしらは何も見つけておらんのじゃな。よし、それでいい。」
 2人の男たちはその場を離れた。周囲を見回して、だれにも見られていないのを確かめながらも、きわめて速やかな退散であった。

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