第四場 わら人形

ナレーター

 シンデレラは、自分が二人を殺したと自白したのです。自分が、二人の食べたりんごに細工をしたと認めたのです。
 シンデレラは逮捕され、現場検証が行われることになりました。

(明るくなる。さとみと二人の刑事、部屋にいる。)

さとみ

 いつかこんなことになるって、思ってましたわ。

刑事A

 どうしてですか。

さとみ

 シンデレラは、被害妄想でした。お母様たちにいじめられているとばかり思い込んでいたのです。もちろんそんなことはなかったのに。それに後から考えれば、シンデレラは私のことも殺そうとしたのです。あの晩、私にもリンゴを食べろって、シンデレラはしつこく勧めてきました。私は食べたくないって断ったので無事だったのですが。・・・・・・ううっ、可哀相なお母様とりか。

(さとみ、泣き崩れる。)

刑事B

 お気の毒でした。あなただけでも無事だったのが、何よりでしたね。・・・・・・おい、刑事C。

(刑事C、下手から入ってきて)

刑事C

 なんですか? 刑事B。

刑事B

 この方をお部屋にお連れして。

(刑事C、さとみを連れて上手に入る。)

刑事B

 刑事A、何か臭わんか。

刑事A

 あ、刑事Bもですか。俺もさっきから何かくさいと思ってたんすよね。何のにおいかな、これ。冷蔵庫で何か腐ってるのかも。

刑事B

 いや、そんなことじゃなくてだな……。

刑事A

 ああーっ、すみませんっ。あの、ホントはやりました、俺。さっき1回だけ、音なしのヤツ。刑事Aにはやっぱ、かなわないなぁ。

(刑事Bの話を途中から無視するように刑事Bは声を大きくして)

刑事B

 犯人は自首している。

刑事A

 あっ、すみません。さっきは俺、ついごまかそうとしちゃって・・・。

刑事B

 いや、刑事Bのことじゃない。シンデレラのことだ。シンデレラには確かに動機もある。だがなぁ……。

刑事A

 ああ、なるほど。シンデレラは、人殺しのできるような子じゃない。そう、でしょ? 刑事B。

(刑事D、下手から駆け込んでくる。)

刑事A

 おう、刑事D。

刑事D

 刑事B、鑑識から連絡です。二人のからだから猛毒のとりかぶとが検出されたそうです。メサコニチンとか何とか…

刑事B

 とりかぶとなんかどうやって手に入れたかな。

(下手から、シンデレラ、縄を付けられて登場。刑事E、刑事F、ともに登場。)

刑事B

 おまえはどうやって二人を殺した。

シンデレラ

 りんごで……。りんごで殺しました。

刑事B

 りんごに何を入れて食べさせたのかね。

シンデレラ

 何も入れません。ただ、サリーちゃんという子が、魔法をかけました。「マハリク、マハリタ、……ナンジャラホイ」とかって。

刑事E

 いい加減なことを言うな。魔法だなんて。

刑事F

 こんな嘘を平気で言うなんて、精神鑑定を受けさせた方がいいんじゃありませんか? 刑事B。

刑事B

 まあ、待て。

(刑事C、上手から飛び込んでくる。手には、封筒を持っている。端の方がかなり焼けこげている。)

刑事C

 刑事B、さとみさんを部屋で休ませてから、裏へ出てみたんですが、ゴミ焼き場にこんなものが。

刑事A

 なんだ。

(刑事A、封筒を受け取って、中からわら人形を取り出す。)

シンデレラ

 あっ、それは!

刑事A

 おまえのか?

(刑事たちは一斉にシンデレラに注目するが、シンデレラはわら人形に気を奪われている。)

刑事E

 最近はやりの、「呪いグッズ」の一つみたいですね。

刑事D

 これはすごい。ずいぶんボコボコに突き刺した跡がある。

(シンデレラ、不思議そうに見ている。)

刑事A

 あっ、底の方にまだ何か入ってる。

(わら人形を刑事Dにわたして、刑事Aが小さなメモをとりだす。)

刑事C

 メモだ! 読めますか?

刑事A

 にじんでいて、分かりづらいなー。

刑事F

 刑事A、見せて! 読めるところを読みます。
「愛する」……ん? わからん。「約束……」あ?……「りか・ぶ・と送る。サリーのパパより。」
「約束、りかぶと送る。」

刑事E

 「とりかぶと送る。」じゃないか?

刑事一同

 ええっ、「とりかぶと送る。」だって!

(刑事たちがシンデレラを一斉に見る。)

シンデレラ

 そんなの知らないっ! うそよ!

刑事B

 刑事A、だれ宛だ? 宛て名は読めるか。

刑事A

 焦げてるな。でも、でも読めそうだ。
「カボチャ町大字ねずみ一の三二、ええっと、ま・さか、まさかさ・とみ、真坂さとみ?」

刑事一同

 「真坂さとみ」だって!

刑事C

 まさか!

(一同、刑事Cをにらむ。)

シンデレラ

 お姉様も? どうしてこんなことに……!

(上手から、さとみよろよろと現れる。)

さとみ

 雨が・・・、雨が邪魔をしたのね。・・・ああ、ちきしょう。雨も、買収しておくんだった。そう、それくらい簡単。それだけで、この家もお金も、財産はみんな、私のものになるはずだったんだから。

(さとみ、呆然としたまま立ち尽くす。)

シンデレラ

 いやだ! 嘘よ!
 だって、みんなが……
 みんなが幸せになるはずだったのよ!

(幕)

                        製作年月 平成三年七月

ページ: 1 2 3 4 5