第三場 りんご
ナレーター
サリーちゃんもカブも、魔法使いです。でも、心優しい子どもの魔法使いなので、シンデレラの落とし物を放ってはおけません。次の日、二人で届けてあげたのです。
幸い、シンデレラの他にはだれも家にいませんでした。
シンデレラはサリーちゃんに、これまでのことを洗いざらい打ち明けたのでした。
(明るくなる。シンデレラ、サリー、カブがいる)
サリー
そう。それでわら人形で呪い殺そうと思ったのね。
シンデレラ
呪い殺すだなんて、そんなことしないわ。
カブ
でも、そのための道具だよ。そうだろ、サリーお姉ちゃん。
サリー
そうね。あんまり効かないけど。
シンデレラ
え? 「すっごくよく効きます」って言ってたのよ、テレビで。
サリー
ほぅら、使うつもりだったんじゃない。
シンデレラ
違うったら。……ちょっとだけよ。
サリー
いいのよ。当然だわ。このままじゃあなた可哀相だもの手伝ってあげる。
シンデレラ
手伝うって、何を?
サリー
でも、わら人形は駄目。テレビで言ってるのなんか嘘。売れりゃいいと思ってんだから。
シンデレラ
もうそれはいいわ。使わないから。
サリー
お母さんとお姉さんたちの好きな食べ物は何?
シンデレラ
好き嫌いはそれぞれだけど……、りんごなら三人とも食べるわ。
サリー
今、ある?
シンデレラ
ええ。あるけど。
サリー
すぐ持ってきて。
(シンデレラ、りんごをのせた皿を持ってくる)
カブ
わぁ、りんご、だ~い好物。
サリー
こらっ! カブ! 待ちなさい!
シンデレラ
どうするの?
(サリー、黙ってりんごを見つめてから)
サリー
マハリク マハリタ ヤンバラヤー! ・・・。
これでヨシっと。カブ、もういいわよ。
カブ
えっ、食べていいの。わ~い。いっただっきま~す。
(カブ、りんごにかじりつく。りんご落とし、倒れる。シンデレラ、驚いて駆け寄る。)
シンデレラ
ね、かぼちゃ! じゃなくって、カブちゃん! しっかりして! サリーちゃん! これ、どういうこと?
サリー
大丈夫。眠ってるだけだから。
(シンデレラ、カブが息をしているのを確かめ、ほっとする。)
サリー
3日間は眠り続けるの。そして、目が覚めると、優しくて美しい心の持ち主になってるって寸法よ。
シンデレラ
へえ。
サリー
これをお母さんとお姉さんたちに食べさせるといいわ。
シンデレラ
ええ。そうするわ。ありがとう!
(暗転)
ナレーター
悪い心の持ち主に、分けて歩きたいようなりんごです。いくつあったら、足りるのでしょう。いくつあっても足りません。 (間)
その夜、夕食が済んでからのことです。
(明るくなる。継母と姉たちがいる。)
継母
さとみ、おまえ、カボチャ町のミスコンテストに出るドレス、買ったのかい。
さとみ
ええ。言われた通り。自分のお金で買ったわよ。
継母
ああっあっ、やっぱり、持ってたんだねっ。
りか
お母タマ。さとみお姉タマのドレス。とおても、きれい。りかにも買って。それから、りかのリカちゃんにも買って。
(継母、リカを無視して)
継母
シンデレラ! 早くりんごを持ってきておくれ。つまみ食いでもしてるんじゃないのかい。ぐずぐずおしでないよ。
(シンデレラ、りんごを持って登場。)
シンデレラ
ごめんなさい。雨が降りだしたから、洗濯物取り込んでたの。今日のりんごは、とてもおいしそう。とてもいいりんご。お姉様たちも召し上がって。
さとみ
私はいらないわ。食べたくないの。
シンデレラ
そんなこと……、ほんのちょっとでも味見してみたら?
さとみ
いらないったら。しつこくしないでよ。
(さとみ、上手に出ていく。シンデレラ、残念そうに見送る。)
継母
食べたくない者に食べさせるこたぁないよ。もったいない。ほら、りか、お食べ。
りか
うん。りかのリカちゃんにもあげていい? お母タマ。
継母
いいとも。自分のをあげて最後は自分で食べるんだよ。
(継母、りか、りんごを食べる。)
りか
お母タマ。りか、……ちょっと変。
(りか、その場に倒れる。)
継母
どうしたの、りか。まあ、りんごをおっことしたりして、もったいない。シンデレラ、りかを見てちょ・う・だ・……。あ……。
(継母、その場に倒れる。)
シンデレラ
うまくいったわ。さとみお姉様には、冷蔵庫に残りを入れておいて、明日の朝にでも食べてもらうとして……。
まずは、お母様たちをベッドに運ばなくちゃ。
(シンデレラ、継母を運びあげようとする。)
シンデレラ
重いなぁ。……でも3日後が楽しみ! ああもう、おっもいなぁ……。
え? やだ、ちょっと!
(継母の息を確かめる。ついで、りかの息も確かめる。二人を揺り起こしてみる。もう一度、顔を近づけて二人の息を確かめる。)
シンデレラ
どうしてこんなことになるの? やだ! どうして?
(暗転。パトカーのサイレン。)