第二場 マハリク

ナレーター

 カボチャ町には、「マハリク」というブティックがありました。この店は、アラノ宮様と御結婚なさったチコ妃殿下もおいでになるほどの、全国的に有名な店なのです。
 今日は、空の上の魔界から、サリーちゃんのパパがこの店にやってきました。サリーちゃんの誕生日プレゼントを買うためです。

(明るくなる。)

(上手から、サリーのパパ登場)

サリーのパパ

 おお、ここだ、ここだ。有名なブティック「マハリク」だな。サリーに似合うものが、うまく見つかればいいが。

店員

 いらっしゃいませ。贈り物ですか。

サリーのパパ

 そうだ。娘の誕生日にやるんだ。一番いいドレスをくれ。

店員

 お嬢様は、おいくつになられます?

サリーのパパ

 いや、確か……、百十六歳だったかな。

店員

 え?

サリーのパパ

 百ぅ……、じゃなかった、いやいや、やくぅ十六歳。そうそう、十六歳だ。スタイルはいい方だ。

店員

 はい。十六歳用ですね。とてもすてきなドレスがございます。ちょっとお値段ははりますが……

サリーのパパ

 おうおう、それでいい。高くても構わん。すぐ包んでくれ。

店員

 はい、かしこまりました。少々お待ちください。

(店員奥に入る。)

(サリーのパパ胸をなで下ろしながら)

サリーのパパ

 おお、危ない危ない。サリーは百十六歳になるが、まだ子ども。人間の歳に換算してくるのを忘れておった。

(さとみ、上手から登場。)

(サリーのパパ、店の中から見ている。)

さとみ

 あんなにたくさんお金があるのに、私には月々百万円だけだなんて。お母様、本当に欲張り。ああ、もっとお金が欲しいわ。今回だけは、まぁ貯金で買うにしても……。

(さとみ、「マハリク」に入りかける。)

サリーのパパ

 お嬢さん。お茶でもいかがですか。

さとみ

 え、そんな。困ります。私がいくら可愛いからって……

サリーのパパ

 いいじゃないですか。ちょっとだけ。

さとみ

 おじさんには興味ないんです。人を呼びますよ。

(店員、包みを持って出て来る。)

店員

 お待たせしました。八十五万円です。

(サリーのパパ、財布から支払う。)

サリーのパパ

 そら、百万円ある。釣りはいらん。

(店員、驚きながら包みを渡す。)

店員

 ど、ど、どうもありがとうございます。ま、またお越しください。・・・・・てっ、てっ、店長~~・・・

(頭を下げ下げ、逃げるように店員、奥に引っ込む)

(サリーのパパ、さとみに向かって)

サリーのパパ

 どうです。これをあなたにさしあげましょう。お金だって、欲しければあげるよ。

さとみ

 あら。私、おじさんのこと悪い人かと思ったけど、いい人みたい。いいわ、ちょっとなら付き合ってあげる。んふふ。

サリーのパパ

 私の言うことを聞いてくれたらね。望みをなんでもかなえてやろう。大丈夫。このとおり私は「いい人」だ。あなたは人を見る目があるね。さあ。

(さとみ、サリーのパパに連れられて、ルンルンし て上手に退場)

ナレーター

 こういう、「サリーちゃんのパパ」みたいな人を、「いい人」と、言ってよいのでしょうか……。
 同じ日の夕方、シンデレラも「マハリク」の前にやってきました。

(シンデレラ、夕飯の買い物をしての帰り。手には、買い物袋と大きめの封筒を持っている。下手から登場。立ち止まり「マハリク」を眺めて)

シンデレラ

 「マハリク」のドレスを着て、ミスコンテストに出たいなぁ、 私も。そして、スターになる。・・・・・・。
 でも駄目。あのお母様やお姉様がいる限り、私はこき使われるだけ。お父様さえ生きていてくれたらなぁ・・・・・・。

(手に持っている封筒を眺めて)

 こんなもの買うんじゃなかった。テレビの通信販売。
 「すっごくよく効きます」「3つでたったの1万円」「今なら金めっき製の釘がついてお買い得ぅ」だなんていうから、つい買っちゃったけど、二年間のへそくりがパー。一番安いブラウスくらい買えたかもしれないのに。ばかみたい。

 考えてみたら、こんなの使うの、よくないわよねぇ。

(つくづく封筒を眺める。ふと気付いて)

 あら、大変、早く帰らなくちゃ。

(シンデレラ、上手に走り出す。同時にサリー登場。二人ぶつかる。)

シンデレラ

 あ、ごめんなさい。

(シンデレラ、封筒を落とす。気付かずに走り去る。 サリー封筒拾う。)

(サリーを追って、カブ走るように登場。)

カブ

 サリーお姉ちゃん。

サリー

 あら、カブ。ついてきたの? 留守番しててって言ったじゃないの。

カブ

 お姉ちゃん、それ何?

サリー

 さっきの人の落とし物よ。あら、これ、パパの会社の通信販売だわ。「カボチャ町大字ねずみ1の32、真坂シンデレラ 様」だって。すぐ近くね。

カブ

 何が入ってるの?

(サリー、封筒をのぞいてから。)

サリー

 あっ、これは! 商品番号1の6「呪いのわら人形」だわ。

カブ

 あの人、だれかを、殺したいほど憎んでるんだね?

サリー

 そうらしいわ。明日にでも、とにかく届けましょう。

(サリー、カブ、下手へ退場。)

(暗転)

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