第一場 シンデレラの家

ナレーター

 お金をめぐるトラブルは、いつの時代にもあるようです。この話は、今から少し前の実話をもとに再構成したものです。メルヘンではありませんので悪しからず。

(幕上がる)

(シンデレラ、ほうきを持って部屋の掃除をしている。舞台中央、元気なさそうに呟く。)

シンデレラ

 どうしてこんなことになってしまうのかしら。お父様が亡くなってからというもの、お母様もお姉様も急に人が違ったように、私にばかりつらく当たるようになってしまわれた。

(上手奥から、継母の声)

継母の声

 シンデレラ! シンデレラ!

シンデレラ

 はーい、お母様。ここにいます。

(上手から、継母登場)

継母

 なんだい、この子は。まぁだ掃除も終わらせてないのかい。父親に似てグズだねぇ、まったく。あの人も、死ぬまでにずいぶんグズグズしたけど、似たもの親子だよ、あんたたちは。

シンデレラ

 お母様ったら。

継母

 ま、それでもあの人はまだましさ。この家と財産を残して死んでくれたからね。上出来だよ。でもあんたときたら、掃除一つまともにできやしない。義理の娘でなかったら、とっくに放り出してるところさ。

シンデレラ

 そんな……。

継母

 何だよ、その目は。辛気臭いね。文句があるならお言いよ。ここにいるのがいやなら出ていけばいいんだ。無一文でね。

シンデレラ

 そんなこと……。

継母

 出て行かないなら、有り難いと思って働くんだね。ほらっ、掃除が終わったら牛の乳絞りだ。それが終わったら、靴磨き。わかってるだろ。やること全部終わったら、とっととそこらで、シ・ン・デ・レ・ラ・♡
 はーっはっはっはぁ。一日一度はこれを言わなきゃね。

(下手奥から、長女さとみの声)

さとみの声

 シンデレラ! シンデレラ!

(さとみ、下手から登場)

さとみ

 あら、お母様。何してるの?

継母

 ん? ちょっと暇つぶし。さとみは何の用?

さとみ

 ああ。シンデレラ。あなたひどいじゃない。お母様聞いてよ! シンデレラったら、今朝、りかちゃんに御飯をあげなかったのよ。りかったらひとりで泣いてたわ。

(次女りか、わんわん泣きながら舞台の前をゆっくり通り過ぎる。一同黙って見送る。)

さとみ

 ほらね!

継母

 まあひどい! 私の娘を飢え死にさせるつもり? シンデレラ、あんたって子は本当にいじわるな女だね。

シンデレラ

 いいえ、お母様。りかお姉様もちゃんと召し上がったわ。

さとみ

 違うの、お母様。昨日お母様がりかに買ってやった、りかちゃん人形によ。

継母

 あら、そう。でも、いいわ。その罰に、シンデレラは今晩夕食抜きよ。あなたの分は、りかのりかちゃん人形にあげなさい。いいわね。

(シンデレラは口答えするのをあきらめて)

シンデレラ

 ……はい。お母様。

(シンデレラ、悲しそうに掃除を始める。)

さとみ

 ふっふふ。ねぇえ、お母様。新しいドレス、買ってもいい?

継母

 おととい買ったばかりじゃないの。

さとみ

 いやよ。だって、あれは昨日着たもの。新しいのが欲しいのよ。それに金のネックレスも。

継母

 それなら自分のお小遣いで買いなさい。

(さとみ、さらに猫なで声になって)

さとみ

 このカボチャ町で、今度ミスコンテストがあるんですって。そこで着るのよ。私なら絶対ミスに選ばれるわ。きれいだもの。ねえ、そうでしょ? そして、スターになるの。お母様ぁ。だからっ、ねえ、お願い。

(全く取り合うそぶりなく、そっぽを向いて冷淡に)

継母

 だめよ。私がやっとのことで手に入れた財産なんだからね。勝手にはさせないわ。お小遣いは月々百万円。それを使いなさい。まだあるでしょう。やったばかりなんだから。

さとみ

 もおっ。お母さまのケチ。どケチ。超どケチ。ごうつくばり。娘が可愛くないのね。もういいわよ。クソばばっ!

(さとみ、怒って出ていく。継母、あきれて見送る。)

継母

 たぁーっ! あの子も見掛けによらず、欲張りだね。親の顔が見たいわ。

(シンデレラ、手鏡を差し出しかけて、継母が振り返ると同時に背中の後ろにかくす。)

継母

 シンデレラ! もう掃除は済んだのかい。さぼるんじゃないよ。

(継母、上手に入る。)

シンデレラ

 はい……、お母様。……私だって、カボチャ町のミスコンテストに出たいな。

(手鏡で自分の顔を見る。)

 でも、私はお小遣いなんて一円だってもらえない。ドレスなんて一着だって持ってない。家だってお金だって、財産は、もともと、お父様と私のものなのに。

(急に半べそをかき強い口調になって)

 いっそのこと、お母様もお姉様たちも、みんな死んでしまえばいいのよ。

(暗転)

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