ずどんと大砲が鳴ったあとの 僕の心の中を支配する余韻が しつっこくてやりきれない 頭痛のガンガンする痛みには もうあきらめもあるが しかし 僕の心の中を埋め尽くすもの 大砲の余韻が鳴り止まないのだ 大砲は僕の上にある未来
昼下がり
平和な海の掟に 松の梢はうっとり酔い ほうっと明るんだ空が 妖怪を称えあげて光り ジュネーブに飛んだ姉の 手首にはブレスレット 細いブレスレット 鎖につながれた 奴隷の憂い 静かな 海の憂い らっきょうが ガリリと音を残
煙
雨の中を 上昇ってゆく煙が あんまりにも白くて 僕は 「見えること」と「見えないこと」との 価値の相違なんぞを考えている 見えている白さが 無限に 宇宙にまで 届くのではないのを 不思議なことのように思い詰めている 「正
富士山
富士山には 随分たくさんの思い出がある 僕が富士山を好きなのは 数々の思い出の中に どっしりと富士山が座っている その偶然のためなのだろうか なかでも とりわけ強く僕を揺り動かす 八年前の二人の在り方と その背景にあるど
水辺で
源五郎の棲む池のほとりを 小さな竜巻(つむじかぜ)が訪れたとき 葦たちは穂先をなびかせて歌った 理不尽であればあるほど 風は期待を 唆(そそのか)すもので いわば竜巻などは 葦たちには夢みたいなものなのだ 葦たちの騒ぎ様
秋
紅葉を待ち受ける木梢 仕事は終わりに近づいたとささやく木梢 天が澄んで懐かしいほどに ふと昔の夢が微笑みとなって うっかり口をつく僕の口癖 「これが潮時……」 冴えた空気と穏やかな陽光 コンチェルトみたいに戯れ合い それ
馬鹿
夢を追いかける人のきららかな表情を すっかり信じて微笑する 僕は馬鹿だよ ひたむきに行う人の 明るい顔を見ていると 悲しむべき僕の感情がついにはなくなり 嬉しいばかりの僕が出来上がって 得意になる 僕は馬鹿だよ 《「純粋
人生
へたをすると 馬鹿馬鹿しい芝居にだって 心の底から笑うようになる 心の底から泣くようになる あるいは どちらもできなくなる
理想
求めることをやめてしまえば 味気ない四拍子に暮らし ついと思い詰めてしまいそうで 周りの人たちを眺めながら 人生の意義などを考え直しては やっぱり理想を求めるに限ると 結論するのである
独り
独りであることを 詩にしてみようと思ったが ならない 仕方がないので それを詩にした