空には空の 事情というものがございましょうものを 花火の奴ときた日には お構いなしにシュルドンと鳴り 平穏な空のひとときの安息を打ち破るのでありました 空はそれでも 別に文句など言うでなく 首をちょっと傾げたふうに ほほえむばかりで 永遠といったものはこれくらいのものだと まるでひっきりなしの花火を 許しているのでありました
亡命
彼の瞳に映る世界は
未来へと確かに漸進しているはずなのだ
ファシズムに立ち向かう
彼の精神は恐ろしく崇高いではないか
亡命を決意するまでの過程を今
つぶさに振り返ろうとも
その叫びも沈黙も捧げた自己犠牲も
全ては正義への願いに裏付けられていた
〈だからこそ余計 彼はその瞑眩に
自らの全体さえ見えなくなるのだ〉
もちろん
彼は失うことを選んだ者だ
愛すべき祖国を
愛すべき人々を
自らの国籍を
全てを
理想を希求する在り方までも
失わねばならなかったのだ
こうするより他に
彼の生きられる方法はなかったのだ
〈体制に反旗を翻した者は時に
信ずる正義のために死を選び
殺されることをも誇りにする〉
しかし
彼は生きたかったのだ
自分を生かそうと思ったのだ
犬死にではならなかったのだ
彼は理想を守りたかったのだ
彼の死はそのまま彼の
孤高なる精神の消滅を意味する
それだけは
彼には耐えがたいことだったのだ
あってはならないことだったのだ
〈そして 彼は 亡命した〉
だがすぐに彼は
その皮肉を思い知らねばならない
たとえファシズムに染まり切っていても
それは彼の祖国であった
たとえファシズムを信奉する者でも
それは彼の同胞たちであったのだ
憎むものも
愛するものも
彼には一つしかなかったのだ
〈亡命より他に 選ぶべき道は なかったではないか〉
そう呟く刹那
彼はまた
自分を苛み始める
〈たとえ 殺されようとも どうして
最後まで 抗い通さなかったのか〉
時間も空間も
もはや彼の味方ではない
彼はかたく歯をくいしばり
じっと思い詰めるだけだ
彼の苦悩が
愚かな失敗によるものではなく
譲れない成功の結果だからだ
純
君の笑みが見つめる 僕はただ ちいさくうなずく 墜落する予感が 鋭い音をたててよぎり 僕は恐ろしくて そのまま身が凍りついてしまう レモンの黄に輝く 光線がまぶしく僕を貫き通す その拍子に 僕はバランスを失いながらも そのまましかと身構えてみるが もはや手後れ 僕を がんじがらめにしている長い導火線の 先端には もう火花が走り出している むやみな爆発は顰蹙を買う それゆえ賢者は爆発しない というわけではないが 導火線の火花が 僕のいる空間から ただ かすかに音を立てて さらさらと 降り落ちてゆく ああ 純よ その瞳をこそ 僕は祈ろう 純よ 純よ 純よ 僕は振り回すように そうして君の名を呟くのだ