がテーマ: 願い

症状

自分の知らない
過去のあのひとと
自分しか知らない
過去の自分と
どうして巡り会わなかったのか
考える

時間の流れを
ずっとさかのぼって
もっと早い瞬間から
あのひとと
一緒でいられたならと
夢想する

出会う前の
あのひとの回想が
自分の姿を
ちっとも
含んでいないことに
屈託する

未来のどこかで
あのひとの世界から
忽然と
自分が消えてしまう自然に
ふと
しょげる

これはもはや
手の施しようもない
なんともひどい
症状だ

いつか

そのまま
立ち止まらず
少しずつ進んで来て
私の前で
笑って欲しい

無理のある話

あなたは
巴御前にそっくりです
そっくりとは言っても
巴御前の容姿など
私も見たことはありません
私の中にある
そのイメージとの比較です

巴御前はその昔
木曽義仲が
自国から都に攻め登り
攻め落としてまもなく討伐軍に追われ
ついに最期に至るまで
義仲によっていくさの場にも伴われた
天下の美女
美しいというばかりでなく
男顔負けの
腕っ節の強さまで兼ね備え
義仲への強い愛情を
生涯失うことなく全うした
誠心誠意の女性です
私の憧れるイメージです

その
つまり
したがって
あなたは私の
理想のひとなのであります

その日

本当は
いつも寄り添っていたい
朝から晩まで
一日中
ずっと寄り添っていたい
隣にいるという
それだけでなく

生涯に
果たしてどれだけ
そんな風に一日中過ごせるものか
二つの心は
寄り添うどころか
ある時ふと
不用意に姿を現した
曖昧な隔絶によって
ひどく
苛まれ続けたりする

愛することに挫けながら
ついさっきの
ほんの小さな出来事に
やさしく助け起こされては
また性懲りもなく
信じ直してみるんだ
きっと
あるに違いない
美しいその日

願い

めぐみは僕に
お返しなんかくれるなという
素直に甘えられる幸せの傍らで
お返しをしたい僕の願いが
べそをかきながら
迷子みたいに立ちすくんでいる

秘密

めぐみには
秘密がある
心に決めて
秘密にした
動かせない
思い

魔界

悪魔さん どこにいますか?
どこにでもいますか?
いつからいますか?
魔界へ帰ったらどうですか?

あなたが
隠れるの巧みなのは
もう分かりましたから
そろそろ魔界へ
お帰りなさい
とにかく魔界へ
お帰りなさい

念のためのことですが
ここは魔界じゃないのです
ここは人間界なのです
悪魔さん
お願いだから
早く魔界へお帰りなさい
ここは魔界なんかじゃないのです 断乎!


ポセイドン

夏は夕暮れ
透明なほど
肌の白い女が
また頬を涙に濡らして
海辺に立った

 ゆりかごの 調べはカノン
 たれか知る 涙のゆくへ
 風の伝ふる 静けきメルヘン

女は
遠くを見つめたまま
固く唇を
結びなおした
それから
なおもずっと
涙は流れ続けた

 ゆりかごに 時はまどろむ
 小波の 寄せつ返しつ
 彼方なる ノスタルジーの

ポセイドンは
女に恋していた
切ないため息は
今日までに
幾度となく繰り返されていた
けれども女は
そのことに
永遠に気づきはしない
それは風の音と
ほとんど同じに
すぎなかったのだから

決心

引力の
てっぺんにある
ああまでくすんだ
空の色
私は
息を凝らして
また憎みなおす

ああまで
ひどい空の下に
いつまでも
あなたを
放ってなど
おけるものか

大切なものが
だんだんと駄目になる
そんなこと
どうあっても
辛抱がならないのだ

そのくせ
あの空を
澄んだものへと
変えてゆける術に
いつまでも
思い至りはしない
ただ
私の無能が
果てしなく
証明されつづけ
そうして
私の決心ばかり
虚しく強まる

幻想

幻想を
危うく持ってしまう所だった

少年の頃
いつもいつもそれで悲しみ
私はそれが
不当にもその持ち主をいたぶることに
絶えず苛立たしさを感じたのだった
それから私は
次第に幻想という奴を
持たない癖になっていた

それが あの瞳!

あの瞳に見つめられて
私の中には
蘇りそうになったのだ幻想が!
私は身の危険を感じて
すぐさま
あの瞳から
私の目をそらしたのだったが
あるいはそれも
手後れだったか

今もずっと
見つめられているようで
私の目は
もう一度確かめたい
思いの中を
漂いつづける

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