生涯の 思い出は さりげなく ここにある ものだ
ひまわり
少年には見えたかしら。
太陽を乗せて自転車は風となり
季節は秋を急ぎ
少年は振り向かない
ひまわりはただ
そっと
思うばかりだ
すべり台
カツカツカツツ 階段を上り そのてっぺんにある鉄のアーチに ゴツンとぶつけてイテテと思ったが だれも気づかなかったみたいなので 何もなかったふりですべり台を滑った あとからさりげなく 頭をさすったらたんこぶできていた
今
夕焼け雲の赤く染まったつかの間 ひまわりに風がそよぎ その背丈とちょうど同じくらいの少年が そばで葉の手招きに会って立ちすくんでいる 夕焼けのほんのつかの間 風に乗ってどんどん雲は流れ その向こうの空は明るい水色に 光っている 雲の厚みは絶望的であり その下の真っ赤な色が 少年に告げる ほら 今こそ 今なんだと
秋の夕暮れ
金木犀の花の 潔い真剣さに後ろめたくて 宇宙がすすり泣いている けれん味のない沈黙がやがて ため息になりはしまいかと ついと悲しんでしまう 僕の習性 おびえにも似ている 僕などは まだまだいい方なのだと しきりに心で呟くと なんだなんだなんだ 何がいいんだかちっともわかりゃしない そう思いながら少しは慰む 秋の夕暮れ
煙
雨の中を 上昇ってゆく煙が あんまりにも白くて 僕は 「見えること」と「見えないこと」との 価値の相違なんぞを考えている 見えている白さが 無限に 宇宙にまで 届くのではないのを 不思議なことのように思い詰めている 「正直」というものと それに反するものとの違いかと考えてみる 実は「成長」という一言で 説明し尽くされるものかとも考えてみる 少しくらいは 幸福と不幸との差があるのかもしれないと考えてみる 実体と虚体という違いではないことだけは確信している そうしているうちに 白さが見えなくなったその時 煙でなくなるのだということに 不可解さえ感じ始める そうして それが世界を包むことに思い至り 雨の降ってくるわけが 知れる気がした
夕暮れ
あめ色の夕暮れを 見るうちに霧が深まり そろそろ 昨日の幻想に そのまま沈み込んでいた 悪魔の ささやきが聞こえるころだ
無題
湖と 涼しい 風と 僕と
日暮れ方
雨の夕暮れは 今朝からの約束だ 約束をたがえない 律儀な一日が こうして日暮れていく 雨は止まない けれどいつまでも暮れ落ちない おぼろな空気の中を 小さな雨は降り止まない 小さな雨が水たまりに輪を描きつつ 小さな音でも立てたかと思うと 夏になるなあ とだれかが呟く なつかしい日暮れ方である