がテーマ: 愛

花火

空には空の
事情というものがございましょうものを
花火の奴ときた日には
お構いなしにシュルドンと鳴り
平穏な空のひとときの安息を打ち破るのでありました
空はそれでも
別に文句など言うでなく
首をちょっと傾げたふうに
ほほえむばかりで
永遠といったものはこれくらいのものだと
まるでひっきりなしの花火を
許しているのでありました

うーわん
と吠えやがる
あの家の犬に
今日こそは仕返しに
うーわん
と吠えてやろう

そうだ
ついでに姪の由佳にも
うーわん
と吠えてやろう

そうして
あの家の犬に仕返しに
うーわん
と吠えてやったことをじまんしよう
「すごいだろ」ってじまんしてやろう

晩夏

夏の終わりには
かみなりが虚勢を張って
「てやんでいっ!」
てなもんで自分を誇示する
そんな時は
分かってやるに限る
分かってやるに!

水辺で

源五郎の棲む池のほとりを
小さな竜巻(つむじかぜ)が訪れたとき
葦たちは穂先をなびかせて歌った
理不尽であればあるほど
風は期待を 唆(そそのか)すもので
いわば竜巻などは
葦たちには夢みたいなものなのだ

葦たちの騒ぎ様ときたら尋常ではない
我こそはと一斉に歌い出すのだ
小さな竜巻にとりすがるように踊るのだ
よほど思い詰めていたのだろうか
水辺に棲むことに
あるいは倦んでいたのだろうか
この時とばかりに 狂ったかのように

源五郎はあきれて見ていたが まもなく
「阿呆らしい」
と 小さな声を投げ出し
すうい と 泳ぎ始めた

そんな折だ
葦というのは本来
それぐらいの竜巻で抜け飛ぶようなものではないらしいのだが
一本の葦が飛んだ
その小さな竜巻が巻き上げたのだ
だれもが「ああ」という微かな声を漏らした
同時に風は去り 辺りは静かになった
竜巻と一緒に舞い飛んだ葦も
どこかへ消えた

池の水面がまだ激しく波立っていて
源五郎は泳ぎにくいのにうんざりしたけれど
やがて生涯を愛するかのように
「面白い」
と 一言呟く

馬鹿

夢を追いかける人のきららかな表情を
すっかり信じて微笑する
僕は馬鹿だよ

ひたむきに行う人の
明るい顔を見ていると
悲しむべき僕の感情がついにはなくなり
嬉しいばかりの僕が出来上がって
得意になる
僕は馬鹿だよ

《「純粋」などあるわけないさ》

そうだろうか
そりゃあ僕にも分かっている(分かっていない?)
分かってはいても
もっと何かありそうに思われて
諦めきれないでいる
僕は馬鹿だよ

馬鹿でもいい なんて開き直る
僕は馬鹿だよ

無題

あさがおの
これが
ふたばだよ

All Rights Reserved by Sanami Eda

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial