めぐみは僕に お返しなんかくれるなという 素直に甘えられる幸せの傍らで お返しをしたい僕の願いが べそをかきながら 迷子みたいに立ちすくんでいる
ポセイドン
夏は夕暮れ 透明なほど 肌の白い女が また頬を涙に濡らして 海辺に立った ゆりかごの 調べはカノン たれか知る 涙のゆくへ 風の伝ふる 静けきメルヘン 女は 遠くを見つめたまま 固く唇を 結びなおした それから な
手紙
純粋な少女のくれた手紙を 古いノートの間に見つけた 私の書いた小さな詩を とても素敵だと言ってくれたのだ ためらいがないどころか あんまり素直に心を打ち明けていて 私はなんだか今にも 優しい気持ちを誘われてしまう あの娘
幻想
幻想を 危うく持ってしまう所だった 少年の頃 いつもいつもそれで悲しみ 私はそれが 不当にもその持ち主をいたぶることに 絶えず苛立たしさを感じたのだった それから私は 次第に幻想という奴を 持たない癖になっていた それが
自然らしく
不安らしい瞳が 揺れながら僕を見つめる 何かを恐れている君のために 僕は大袈裟に決意する 宇宙よりも自然らしく 存在することを命にかけて 君の恐れているものは 僕であろう 友であろう そして 自分自身であろう 偽りであろ
ロミオとジュリエット
ジュリエットはロミオがロミオであることをどうしてと問い家を捨て名を捨ててくださいと願った互いの運命が不幸な前提のもとに始まったことをその時すでに知っていたからだ 僕は僕で自分が自分であることにどうしてと問うたことこそあっ
ひまわり
少年には見えたかしら。 太陽を乗せて自転車は風となり 季節は秋を急ぎ 少年は振り向かない ひまわりはただ そっと思うばかりだ
黄色の光
看板が斜めになり くすんだペイントの中にある黄色の 妙に鮮やかな光を放っているのが 実は君であるということを 僕はとうとう告げることなしに 今日まで時間を終えてきてしまった そうしてブリキの看板を きちんと立て直す術も持
ゆりかご
ゆりかごに揺られながら 僕はうっとりとしている 君の指の白さを眺めて どうしてあんなものが 自然によって生まれてくるのだろうなどと 呑気に思っている間 僕の中には 君の不思議がたくさんみなぎって 僕を満たすのだ ゆりかご
御坂峠
開けた景色が見たくなって BMWで御坂峠に行った 学生時代 太宰さんのいしぶみを訪ねた 富士山と河口湖の 大きな景観 真っ暗なトンネルの手前 なんだか淋しいような気になる あの 御坂峠 「月見草」の碑の前に立ったら 二十