がテーマ: 孤独

秋の夕暮れ

金木犀の花の
潔い真剣さに後ろめたくて
宇宙がすすり泣いている

けれん味のない沈黙がやがて
ため息になりはしまいかと
ついと悲しんでしまう
僕の習性
おびえにも似ている

僕などは
まだまだいい方なのだと
しきりに心で呟くと
なんだなんだなんだ
何がいいんだかちっともわかりゃしない
そう思いながら少しは慰む
秋の夕暮れ

雨の中を
上昇ってゆく煙が
あんまりにも白くて
僕は
「見えること」と「見えないこと」との
価値の相違なんぞを考えている

見えている白さが
無限に 宇宙にまで 届くのではないのを
不思議なことのように思い詰めている

「正直」というものと
それに反するものとの違いかと考えてみる
実は「成長」という一言で
説明し尽くされるものかとも考えてみる
少しくらいは
幸福と不幸との差があるのかもしれないと考えてみる
実体と虚体という違いではないことだけは確信している
そうしているうちに
白さが見えなくなったその時
煙でなくなるのだということに
不可解さえ感じ始める

そうして
それが世界を包むことに思い至り
雨の降ってくるわけが
知れる気がした

独り

独りであることを
詩にしてみようと思ったが
ならない
仕方がないので
それを詩にした

知恵の輪

知恵の輪にかかりっきりだ
本当は
永遠にはずれないさだめの
インチキの知恵の輪なのかもしれないのだ
いつか ふとしたはずみに
自然のようにはずれるような気がするのだが
今のところは一向駄目だ
インチキの知恵の輪なのかもしれないのだ

だれが仕掛けたいたずらなのか知らず
気づいたときにはもう握っていた
幼い僕は手の中にある
時代遅れなそのおもちゃで
無心に遊び始めていた

力を入れて あるいは抜いて
引っ張ったりひねったり押したりもした
いろんな角度も試してみたし
あらゆる姿勢でやってもみた
時折は その時が来たかと思ったこともあったが
それは単なる思い違いで
やっぱり結局駄目だったのだ

この知恵の輪だけはどうにもいけない
いくらやっていてもはずれない
いっそやめちまえば良さそうなものだが
そうもゆかない やめられないのだ
おふくろのお腹の中にいたときにさえ
もうしっかりと握られていたのではなかったかと
僕には思われるのだ
この知恵の輪が僕のものだから
はずすのも僕でなければならないのだ

何はどうとあれ
やめられないのだから たちが悪い
何はどうとあれ
知恵の輪にかかりっきりだ

紋白蝶

ぼんやりと
海をあこがれていると
微かな風が吹いてきた

遠くに
紋白蝶が振り子のような
往復運動をしているのが見える
ずいぶんと遠くなのに
どういうことだろう はっきり見える

夏が近付いたための
僕の悲しみのせいかもしれない
そんなくだらない考えが
遠くを往復運動しているうちに
紋白蝶を見失った

ぼんやりと
海をあこがれていると
微かな風も吹いて来ない

どちらにしても
夏が近いということだろう

人生

一生懸命
サーカスだ。

All Rights Reserved by Sanami Eda

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial