そこにはひとつの ガラス窓があって 向こうに景色が開けている あこがれていた景色は ずっとあの頃の通り 色褪せない うす暗がりから望む 景色の明るさは 永遠をたたえて無垢なままだ 窓のガラスには うっすらと僕が映り あこ
欠片(かけら)
たくさんの いただきものを 寄せ木細工のように 組み合わせて 私の全体ができている 一つ一つの欠片を どなたからいただいたものか 見分けようにも まるでお手上げの だらしない 始末だけれど
宛名書き
年賀状の宛名書きを パソコンで手伝ってやるのは ここ数年の私の習い 昨年の住所録を印刷して 母に渡してやると 一年前に頂いたお賀状の束と ひとしきり時間をかけて 照らし合わせている しばらくすると 私の部屋にやって来て
ここ
今 ここに いること やがて ここから いなくなること この二つは 初めから交わされている 太陽と月との 動かせない約束だ だからこそ ここにいるうちに やった方がいいことの 全部をやっておくとしよう ここからいなくなる
山茶花
冬 真っ直ぐに続く 一本の道を歩み疲れて そろそろ気の遠くなりそうな心に 傍らの山茶花の花が ほうと灯を灯す なぜ こんな季節を選んで 花を咲かせるのだろうと ちょっと勇気みたいなものが ほうと灯を灯す
壊れた独楽
壊 れ た独楽でもそれなりに回る なんだか自分が回っている ようでこんなものさえ 捨てられない で い る
古びた小箱
みっともないくらい ひたむきになりたい 古びた小箱を 涙を流して守り通す 子どもみたいに
まずまず
まずまずだ何ということのない僕の人生のことだけど一人僕だけは見捨てないでいこうと思う一人僕だけが思うようにならないというのでもなさそうに思われるから
無題
生涯の 思い出は さりげなく ここにある ものだ
ロミオとジュリエット
ジュリエットはロミオがロミオであることをどうしてと問い家を捨て名を捨ててくださいと願った互いの運命が不幸な前提のもとに始まったことをその時すでに知っていたからだ 僕は僕で自分が自分であることにどうしてと問うたことこそあっ