がテーマ: 出会い

自分という存在に
時々自信がもてなくなる
ふと
心細くなる

これはそう
きっとアレだ
片思いの時の
いつものアレだ

二人

この
しばらくの間
大切な時間が
動いていくような
記念
すべきことでいっぱいの
美しい日々です

約束

これまで互いの過ごしてきた
すべての時間と出来事は
この約束を果たすためのものだったと
僕は本気で口にする
きっと君は
いつものように
ちょっとあきれて笑うだろう
また大げさが始まったと
僕を思わず嬉しくさせる
可愛い声を野花に咲かせて
面白がるにちがいない

寂しさや孤独の涙も
挫折した悲しみも
捨てきれない不器用な結末も
すべてが
この日のための祝福だったと
思うことさえできもする
どんなに辛い思いまで
残らず
この一つの約束のために
特別に誂えられてきたものだったと
信じることさえできもする

いつ約束なんかしたものかと
君がいたずらに僕を困らせても
僕はヘッチャラ
そんなこと
わかりゃしないに決まっている
互いが交わした約束事でもあるまいし
わかろうはずなどあるものか
宇宙が始まったその時から
この約束は
ずっと守られるはずだっただけ
僕が真面目にそう言うと
きっと君は
また大げさが始まったと
そよ風みたいに
笑ってくれるに違いない

プレゼント

サンタクロースが
二十年分くらい届け忘れていた
私へのプレゼントを
ひとつに
まとめて届けてくれた
この日

無理のある話

あなたは
巴御前にそっくりです
そっくりとは言っても
巴御前の容姿など
私も見たことはありません
私の中にある
そのイメージとの比較です

巴御前はその昔
木曽義仲が
自国から都に攻め登り
攻め落としてまもなく討伐軍に追われ
ついに最期に至るまで
義仲によっていくさの場にも伴われた
天下の美女
美しいというばかりでなく
男顔負けの
腕っ節の強さまで兼ね備え
義仲への強い愛情を
生涯失うことなく全うした
誠心誠意の女性です
私の憧れるイメージです

その
つまり
したがって
あなたは私の
理想のひとなのであります

幻想

幻想を
危うく持ってしまう所だった

少年の頃
いつもいつもそれで悲しみ
私はそれが
不当にもその持ち主をいたぶることに
絶えず苛立たしさを感じたのだった
それから私は
次第に幻想という奴を
持たない癖になっていた

それが あの瞳!

あの瞳に見つめられて
私の中には
蘇りそうになったのだ幻想が!
私は身の危険を感じて
すぐさま
あの瞳から
私の目をそらしたのだったが
あるいはそれも
手後れだったか

今もずっと
見つめられているようで
私の目は
もう一度確かめたい
思いの中を
漂いつづける

変身

君はある時
自分が既に自分の手には負えないくらい
女になってしまっていたことに
思い至るであろう

少女は大人の女を
長く夢見てきたであろうけれど
そうしているうちに
いつのまにか
自分の知っている自分より
大人に見られている自分を見つけ
何か途方もないことを
しでかしてしまったと
うろたえるであろう

やがて
自分の心をも持て余すようになり
君はある時
無口な湖に変身するのだ
冷たく澄み切った水は乱反射し
小波がその
傷ついた悲しみをそこ深く沈めて揺れると
もはや君は戸惑わない

湖に生まれたばかりの水の濁りが
自分を持て余さないための
至上の勇気だと信じ始めるのだ

ロミオとジュリエット

ジュリエットは
ロミオがロミオであることを
どうしてと問い
家を捨て
名を捨ててくださいと
願った
互いの運命が
不幸な前提のもとに始まったことを
その時すでに知っていたからだ

僕は僕で
自分が自分であることに
どうしてと問うたことこそあったが
あなたが
今のあなたであることほど
僕には深刻ではなかったのだ

僕たちはだれしも
ようやく出会うその前に
それぞれの前提を身にまとい
簡単ではない存在になっている
生きているだけ
たくさんの鎖につながれ
予め決まったその長さの限り
僕たちは呑気でいられる

そこへやってきて
恋ってやつは理不尽だ
人が油断している隙に
何もかもお構いなしで
あらゆる鎖を
引きちぎろうと暴れ出すのだ
手に負えない勢いで
僕の中で暴れ回り
純粋に存在することを
僕に求める

呑気に飼い慣らされてきた僕は
自分にかけられた鎖を
見つめ直し
握りしめて
そのまんま立ちすくみ
途方に暮れる
真実と嘘と自分が
わからなくなる

昨年と同じく

昨年と同じく
北海道に行けたら 行こう
昨年と同じく
列車の中で人と親しくなり
昨年と同じく
海や山や湖で
じっくりと思ってみるとしよう
昨年と同じく
本当の自分と
落ち合えるかもしれないから
昨年と同じく
行けたら

夕焼け雲の赤く染まったつかの間
ひまわりに風がそよぎ
その背丈とちょうど同じくらいの少年が
そばで葉の手招きに会って立ちすくんでいる
夕焼けのほんのつかの間
風に乗ってどんどん雲は流れ
その向こうの空は明るい水色に
光っている
雲の厚みは絶望的であり
その下の真っ赤な色が
少年に告げる
ほら 今こそ 今なんだと

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