うさぎの ため息 聞いただけで 眠れない 小さなため息
うさぎ
知ってるか うさぎの 目は赤いの ばかりじゃ ないのだ
ひまわり
ひまわりは 戸惑っている 自分の心を 持て余している 傍らにきっと 白い花でも 咲いたのだろう
亜希子
そこにいる君を僕は愛するのである 飾り過ぎることも 粗野に見せ過ぎることも 今や無用のことである そういうことを想像してみては 僕は一切の思いを集め 世の中をまた憎み直し 溜め息をつくのである そこに 今いる君を 僕は愛するばかりである そこにいなくなる君を 僕は心に刻みつけ しばらくそっと黙り込むのである
よい
恥じらいが、よい。誠実なのが、よい。きちんと しているのが何より、よい。それは少なからず、 僕の思い込みにもよるのだろうけれど、それはそ れとして、よい。そのくらいのことが、許されて も、きっと、よい。それは僕にとっての、愛の存 在しうる可能性の唯一のものであるからだ。愛と 呼べるのかどうか、それが正当な呼び方でないに しろ、とりあえず、よい。二つの存在が、僕には 不可解に違いなく、面倒なことのようにも思われ るけれど、必然的とも言ってよい出来事だからだ。 よい、ではないか。
日暮れ方
雨の夕暮れは 今朝からの約束だ 約束をたがえない 律儀な一日が こうして日暮れていく 雨は止まない けれどいつまでも暮れ落ちない おぼろな空気の中を 小さな雨は降り止まない 小さな雨が水たまりに輪を描きつつ 小さな音でも立てたかと思うと 夏になるなあ とだれかが呟く なつかしい日暮れ方である
大男
思い詰めた少女のように けなげに僕の胸を飾っていた 小さな瑪瑙のタイどめを /メノウ 僕はとうとう 守り切れなかった 平穏な時にほど何かが起こる 倦んでいる退屈の向こうから のっしのっしと あの大男はやって来た 大男は乱暴だ 乱暴者だ 片手が僕の胸ぐらを掴むと おお もう一方の手が 僕の大切な瑪瑙のタイどめを 奪い取ろうと伸びてくる 奪い取られるものかと 抗い もがいても 大男の力は強大だ むやみなくらい強大だ さんざんいたぶられた末に 僕はあえなく倒されてしまう 瑪瑙を手にとると 大男は僕をうっちゃって ゆっくりと向こうへと 遠くへと離れて行った 取り残されて ずっと僕は座り込んでいた 何がいけなかったのか 愚にもつかないことを思っては 涙をこぼした いつしか 瑪瑙のあった胸元に つゆ草の花が寄り添って 僕をやさしく気遣っていたが 僕にはそれさえ またあの大男に 狙われはしまいかと 気になり始めているのだ
純
君の笑みが見つめる 僕はただ ちいさくうなずく 墜落する予感が 鋭い音をたててよぎり 僕は恐ろしくて そのまま身が凍りついてしまう レモンの黄に輝く 光線がまぶしく僕を貫き通す その拍子に 僕はバランスを失いながらも そのまましかと身構えてみるが もはや手後れ 僕を がんじがらめにしている長い導火線の 先端には もう火花が走り出している むやみな爆発は顰蹙を買う それゆえ賢者は爆発しない というわけではないが 導火線の火花が 僕のいる空間から ただ かすかに音を立てて さらさらと 降り落ちてゆく ああ 純よ その瞳をこそ 僕は祈ろう 純よ 純よ 純よ 僕は振り回すように そうして君の名を呟くのだ