誠に月並みですが 東京特許許可局 よく言われることなんですけれど 東京特許許可局 本当のところ私どもとしましては 東京特許許可局 なにぶん戸惑うことばかりなもので 東京特許許可局 時代時代と諦めればよさそうなものを 東京特許許可局 やりたい人がやればいいんでしょうが 東京特許許可局 お詫びといっては不具合もありますわけで 東京特許許可局 我慢がならぬと怒ってみたところで 東京特許許可局 結局のところにっちもさっちも行かず 東京特許許可局 鴬が鳴きます 東京特許許可局 鴬が鳴きます 東京特許許可局 鴬が鳴きます 東京特許許可局 東京特許許可局 東京特許許可局 ・・・・・・
もしもの決意
尊敬できない在り方を もしもしなければならなくなって そのときたとえ渋々でも 自分をすっかり明け渡すような 最低のことにでもなったなら 僕は是非とも願い下げです この世にそうやってまで存在すること 神様と仏様とお母様に申し出て 潔く辞退しなけりゃ居られません 僕は是非とも願い下げです 自分がちっぽけで だれからも尊敬されないのは それはそれで平気だけれど たったひとり 自分にくらい尊敬される 生き方を選びたいので 死に方を選びたいので
ひまわり
少年には見えたかしら。
太陽を乗せて自転車は風となり
季節は秋を急ぎ
少年は振り向かない
ひまわりはただ
そっと
思うばかりだ
蛍
夏休みで田舎に帰った僕たちが 「ひと夏に一度そこで河童が足を引く」 とか言う神秘めいた噂をしながら 冷たい小川の淵で毎日泳いでいた頃だ あれはまだ 地球の温暖化なんか だれも言わなかった頃だろう 月の出ない真っ暗な夜 だれかが持ち出した懐中電灯の明かりを頼りに 蛙たちの控え目に鳴く響きの中 いとこたちと一緒に僕は冒険に出た 今思えばあれはたぶん 流星群が来ていたのだろう 次々と星が流れた 見上げたまま僕たちは黙っていた 懐中電灯も消していた 互いの顔も見えない闇の中に 僕たちは動かなかった 僕は顔を空に向けたまま 目を上下左右に動かして 足元から切れ目なく繋がっている 真っ黒な宇宙を見た 蛍が飛んできた はるか静かに 淡く涼しい光が ゆっくりと繰り返され 僕たちの側を流れた それほどの闇の中で 蛍がだれかにぶつかるのではないかと 要らぬ心配をしながら 確か成虫になってから蛍は 何も飲み食いしないまま死ぬのだったと 僕は思い出していた そしてそれこそ 僕は自分の呼吸する音なんかよりも 確かなる生というものを意識したのだ あれから ときどきのことなんだが 僕には 蛍ばかりではない そこらにいる他の虫たちのお尻さえ ほうほうと光りを放ち始めるのではないかと思われたものだ あの時 流れる宇宙的時間の中で さりげなく生命を灯してみせた 蛍はどこ? 逃がしてしまったきりそれきり見ない
金魚すくい
薄紙を張ったポイも ずいぶんと近代的になりましたがね 子供はやっぱり金魚すくいが好きと見える その小さな生け簀の 周りに小さい手を並べて 順番を待っていたりするにも楽しそうだ すぐに薄紙が破れてしまって ハイ残念でした と言われて一匹の金魚を渡される時 ちょっとだけつまらなそうではいても 子供はけっこう潔い そのときの子供の瞳には 確かに現実というものが 親しげに微笑んでいるのだ 本当のことを言えば 金魚すくいというものが 優しい表情の陰で 鋭くにらみつけているのだが…… (たぶん 遠い昔から)
少女
夏といえば 爽やかな色の 水玉模様のワンピースを着た 少女を思い出すのはなぜだろう そのくせ だれということもなく 顔なんかどうでもいいと考えながら 十歳くらいの少女の姿を思い浮かべている しかもだ やっぱりどこのだれかしらと不思議に思っていて しきりに昔知っていたその年頃の少女を 思い出してみるんだが ピンと来ないままたいがい 別のことを考え始めてしまううち紛れてしまうのだ
昨年と同じく
昨年と同じく 北海道に行けたら 行こう 昨年と同じく 列車の中で人と親しくなり 昨年と同じく 海や山や湖で じっくりと思ってみるとしよう 昨年と同じく 本当の自分と 落ち合えるかもしれないから 昨年と同じく 行けたら
花火
空には空の 事情というものがございましょうものを 花火の奴ときた日には お構いなしにシュルドンと鳴り 平穏な空のひとときの安息を打ち破るのでありました 空はそれでも 別に文句など言うでなく 首をちょっと傾げたふうに ほほえむばかりで 永遠といったものはこれくらいのものだと まるでひっきりなしの花火を 許しているのでありました
ふん
ふん踏んづけちゃったら くさいよ ふんそのままにしないでよ 飼ってる人が片付けてよ 近くに水道があればいいけどね なかったら ちり紙でふいてもふんくさいのがとれない 新しいやつだととくに
すべり台
カツカツカツツ 階段を上り そのてっぺんにある鉄のアーチに ゴツンとぶつけてイテテと思ったが だれも気づかなかったみたいなので 何もなかったふりですべり台を滑った あとからさりげなく 頭をさすったらたんこぶできていた