みっともないくらい ひたむきになりたい 古びた小箱を 涙を流して守り通す 子どもみたいに
まずまず
まずまずだ何ということのない僕の人生のことだけど一人僕だけは見捨てないでいこうと思う一人僕だけが思うようにならないというのでもなさそうに思われるから
無題
生涯の 思い出は さりげなく ここにある ものだ
ロミオとジュリエット
ジュリエットはロミオがロミオであることをどうしてと問い家を捨て名を捨ててくださいと願った互いの運命が不幸な前提のもとに始まったことをその時すでに知っていたからだ 僕は僕で自分が自分であることにどうしてと問うたことこそあっ
雫(しずく)
旧道のトンネルの中はいつも暗くひんやりとしているまるで永遠のようなその静寂の中をひときわ冷たい水の雫の落ちる音が響くとき響くとき少しだけ時間の流れがひずんで後戻りするんだが後戻りするんだが
祈り
捧げられた「祈り」の分だけ人々の生涯は確かに幸せになってきたのだろうか 信仰というものがろくにないんだから仕方も無いが僕の場合にはどうにも祈りという祈りがいつもいつも無力だった気もする 祈りというのは限界にまで至ったとき
水平線
水平線がまあるく どうやったら見えるんだろう まだ本当には そう見えたおぼえがないんだ ないしょだけど
奈津子
「奈津子は初めからいなかった」 そう言っても 何も差し支えはないんだが…… 子供らに人生なんかを説いて 僕の人生が終わってゆく 終わってゆく 馬鹿げちゃいるが もしもの話 誕生したその時 終わっていたと仮定し
たぶん
世界中に毎日 絶滅している生物が たくさんあると聞くが その終わりはきっと 人知れず あっけないものなのだろう 終わってみれば 結構あっけないものなのだろう 終わったんだか 何だか よく分からないような ささいな 出来事
霙(みぞれ)
霙の中を 卒園式帰りの母子が 傘をさして通り過ぎます 着飾った若いお母さんは 子供の制服の胸にあるリボンと ちょうど同じようなピンクの きれいなスーツを着ているのです 冷たい霙は 傘の上にもうっすら積もって 子供の黄色い