明るい蜃気楼がそっと遠のき
ふと我に返ると
人々はその傍らに
ほこりと蜘蛛の巣とかびの領分と化した
古臭いあばら屋を見出だすであろう

まもなく
それが自らの帰るべき住み処であったことを
どこか見覚えのある調度から認めねばならないであろう
同時にそうすることの空しさをわかりながら
きっと呟くであろう
《まさか こんな はずでは》

人々はそして
もしや長い長い魔法にかかっていたのかしらと
やっとのことで思い至るであろう
だれかにささやかれた
忌まわしいまじないの言葉が
そう言えば と思われてくるであろう

やがて柔らかな愁いが
心の中にはびこって
無数の蜘蛛の巣のように
きれいに幾何学模様を作っているのを
もはや諦めた顔つきで
ぼんやりと眺めるであろう
もちろんそれは
これまでの時間を鮮やかに記念して
静かにきらきらとか細く揺れて
静かな光を放ち続けるであろう

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